第1章

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『お父さん、お母さん、元気でお過ごしですか? タイに来て3週間、ようやく現地での生活にも慣れ、みんな元気で過ごしてますのでご安心ください。 早速ですが、メンテナンス中のペッパー5号が戻って来るまでの代わりに、ちょうど良い物を見つけました。 チュッパーと言って、タイで今人気の子供型ロボットです。 ペッパーの10分の1の価格ですが、性能は殆ど変わらず、中々の優れ物です。』 「お父さん、それ、やっぱり隆志からみたいよ。」 「やっぱり、そうか。 オッ、充電早いなあ。 スイッチはこれかな?」 久しぶりに嬉しそうにしている夫の様子を見ていると、こっちまで嬉しくなる。 息子夫婦が家族でタイに行ってしまってからというもの、可愛いがっていた孫の勇太に会えなくなった事で、ここの所、夫はちょっぴりふさぎ込んでいた。 「なんとなく面影が勇太に似てるなあ。」 「そうですか?」 「えっと、日本語、…日本語っと。」 設定に夢中な夫から視線をパソコンに戻し、私はメールの続きを読み始めた。 『多分、そちらに届くのは、明日か明後日になると思います。 また、何か面白い物を見つけたら送りますね。 今度はお母さんの喜ぶ物で。』 「始めまして、チュッパーです。 まずは、僕に名前をつけて下さい。」 まるで本当の子供の様な声で音声ガイダンスが流れた。 「おお、名前か。 …じゃあ、ゆうたでどうかな?」 「お父さん、勇太と同じじゃあ、帰って来た時、混乱しますよ。」 私の声など聞こえないのか、夫は、何かのボタンを押した。 「ゆうたですね。とても良い名前をありがとうございます。」 「おお、ちゃんとお礼が言えるなんて偉いな、ゆうた。」 夫はそう言いながら、優しく何度もロボットの頭を撫でた。 …すっかり、夢中になって。 まあ、名前は後で変更すればいっか。 えっと、…どこまで読んだっけ。 『それから、タイでは宗教上、頭に手で触れる事はタブーとされてます。 日本の感覚で子供の頭を撫でたりすると、親が怒って大変な事になります。 殺人に至ったケースも有るんですよ。』 あら? なんで突然宗教の話? 『そのロボットにもそれがプログラミングされてる様なので、頭は絶対に撫でないで下さいね。』 バッゴーン、ガシャーン!!! 突然、後ろで物凄い音がした。
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