4人が本棚に入れています
本棚に追加
『お父さん、お母さん、元気でお過ごしですか?
タイに来て3週間、ようやく現地での生活にも慣れ、みんな元気で過ごしてますのでご安心ください。
早速ですが、メンテナンス中のペッパー5号が戻って来るまでの代わりに、ちょうど良い物を見つけました。
チュッパーと言って、タイで今人気の子供型ロボットです。
ペッパーの10分の1の価格ですが、性能は殆ど変わらず、中々の優れ物です。』
「お父さん、それ、やっぱり隆志からみたいよ。」
「やっぱり、そうか。
オッ、充電早いなあ。
スイッチはこれかな?」
久しぶりに嬉しそうにしている夫の様子を見ていると、こっちまで嬉しくなる。
息子夫婦が家族でタイに行ってしまってからというもの、可愛いがっていた孫の勇太に会えなくなった事で、ここの所、夫はちょっぴりふさぎ込んでいた。
「なんとなく面影が勇太に似てるなあ。」
「そうですか?」
「えっと、日本語、…日本語っと。」
設定に夢中な夫から視線をパソコンに戻し、私はメールの続きを読み始めた。
『多分、そちらに届くのは、明日か明後日になると思います。
また、何か面白い物を見つけたら送りますね。
今度はお母さんの喜ぶ物で。』
「始めまして、チュッパーです。
まずは、僕に名前をつけて下さい。」
まるで本当の子供の様な声で音声ガイダンスが流れた。
「おお、名前か。
…じゃあ、ゆうたでどうかな?」
「お父さん、勇太と同じじゃあ、帰って来た時、混乱しますよ。」
私の声など聞こえないのか、夫は、何かのボタンを押した。
「ゆうたですね。とても良い名前をありがとうございます。」
「おお、ちゃんとお礼が言えるなんて偉いな、ゆうた。」
夫はそう言いながら、優しく何度もロボットの頭を撫でた。
…すっかり、夢中になって。
まあ、名前は後で変更すればいっか。
えっと、…どこまで読んだっけ。
『それから、タイでは宗教上、頭に手で触れる事はタブーとされてます。
日本の感覚で子供の頭を撫でたりすると、親が怒って大変な事になります。
殺人に至ったケースも有るんですよ。』
あら?
なんで突然宗教の話?
『そのロボットにもそれがプログラミングされてる様なので、頭は絶対に撫でないで下さいね。』
バッゴーン、ガシャーン!!!
突然、後ろで物凄い音がした。
最初のコメントを投稿しよう!