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『上等』
ガチャリ、と扉が開く。
外へと誘い出すかのように、揺れる。
『覚悟はいいな?』
「当然」
なにが変わるか、なんて考えない。
失うものが自分の命の他にない、そこからくる自暴自棄と言われても、否定はしない。
ただ。どうしようもない衝動。
復讐心、とはまた違う、怒り。
『ここにいれば、最低限の…命の保証だけは確実だぞ?』
いざ、一歩を踏み出すときになって、彼女はそんなことを言った。
「ここに閉じ込められて生きたって、死んでいるのとかわらないだろ」
ポケットの携帯端末に低く言う。
そして、踏み出す。
ずらりと並んだ扉。
「………………」
『驚いたか?』
マノンは相変わらずだるそうに言う。
「俺みたいなやつらがいるってことか…?」
たまらず漏れた呟きに、クスクス笑う声が返ってくる。
『残念ながら。ここにいるのは、本当に罪を犯したもの達だよ』
はあ、と大きな溜め息が聞こえ、
『記憶を辿ってみろ―――過去に、この町で、小さなものから大きなものまで。なにか事件が起きた記憶はあるか?』
ないだろう。と蜘蛛の支配者は言う。
たしかに、ない。
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