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それは、肉体を持っていない。
柔らかい肌も、しなやかに動く筋肉も、しっかりした骨格も。
なめらかな髪も、きらめく眼球も、しゃべるための口も、持っていない。
それでも、表現するならば、蠢くとしかいいようがないだろう。
「ふぅ~」
するはずがないのに、そんな声がした気がした。
明るく能天気な、悩み事なんて一つも無さそうな、溜め息が。
「いつもどおりのお仕事も、今日はなんだかなー…って、そう思わない?」
誰にむかって話しているのか。そもそも、話しているといってしまっていいのか。
明るく能天気なその波は、明確に言葉を作り出している。
「ハノン。まったく、余剰能力だって限られてるんだ。こっちまで圧迫しそうだから、無駄にオプションをつけるなっつーの」
言葉に反応したように、即座に別の波が返される。
こちらは、ハノンと呼ばれた方と比べ、どこか不機嫌そうな。無愛想な印象がある。
チカチカと光が瞬く、0と1の並ぶ場所。
「マノンだって、不機嫌そう、なオプションつけてるじゃーん。いざとなったら、サーバーメンテの貼り紙するって~」
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