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『資料室に、向かってください』
しばらくして聞こえた声は、どこか切羽つまっているようで、
『早く、向かってください』
有無を言わせない急かした声は、どこか今まで以上に人間味がない。
しかし、どちらにせよ行くはずだった場所。
不審に思いながらも、少年は進む。
途中、歩く足音に身を潜め、警戒して進む。
なぜ、ハノンは切羽つまっているのか。
なぜ、実験の話を自分にしたのか。
また、パニックを繰り返さないよう、水面の泡のように湧き出る疑問は、全て無視する。
景色が変わることもなく、時間を計る術もなく、どれほど歩いていたのかはわからない。
長い時間だったのか。
それとも、それほど時間は経っていないのか。
資料室にたどり着く。
たどり着いた。
鍵は、かかっていなかった。
中には、簡単に入れた。
そっと、扉を閉めた。
「ついたぞ」
そこは、資料室というよりは、誰かの私室のように思えた。
あるいは、ホラーの舞台にでもなりそうな、時間の止まった部屋。
スチール製の机と、同じくスチール製で、ぎっしりとファイルやノートのつまった埃だらけの本棚。机の上の、型の古いノートパソコンと、カビのはえたマグカップ。アルミフレームのベッドの布団も黄ばんだカーテンも、殆ど原形を留めないほどにボロボロ。
シンプルな。飾り気のない、必要最小限のものしか置かれていない部屋。
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