第2章 I believed in……

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驚異的な身体能力はない。 この場を打開できるような、名案を一瞬で思い付いて実行するような能力もない。 火事場のなんとかのような、ギリギリの状況下における覚醒もしない。 それでも、踏みしめた。 「オオオォォォォォ!!」 なにか策があるわけでも、勝算があるわけでもなかった。 痛みをこらえて、突き進む。 追っ手の目の前を、すり抜ける。 体のあちこちで、鈍い痛みが炸裂する。 しかし、止まらない。 喉から血を吐いても、全身に固い熱の塊がまとわりついたように、感覚が徐々に鈍くなっていっても。 叫ぶ。 走る。 叫んで、走り続ける。 何回、そもそもなにをされたのかは判らないが、何回攻撃されたのか。 (……………………?) もうほとんどわからなくなってはいたが、衝撃が、攻撃が途切れる。 それでも走る。 走って走って走り続けて。 硬く冷たい床の上に、倒れこんだことに気付くまでに、どれほどかかったのか。 腫れきって、硬く重い瞼を、ジリジリと押し開ける。 (い…ない…?) 扉も、敵も、なにもない。 指一本動かせないなかではありがたいが、不気味だ。 携帯端末は、いつだったか。 もう、とっくに落としてしまっていた。 個人情報のことを考えかけ、その無意味さをさとる。 冷えた床がなぜだか心地よく。
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