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「…………………本当に、惜しい人を無くしたものだね。」
「…………………はい。」
母親の初盆。史弥の親父さんが、供養のためアパートに訪れた。
「そういえば、上総くんは、史弥と久しぶりに会ったんだったね。どうだい、変わってたかい。うちの息子は。」
「ーーーっ、いえ………。昔のままでした。」
おじさんに突っ込まれて、まるでこの前の事を知られているように感じてしまう。
そんな訳がないのに。
中学のあの日。目が覚めたら、もう史弥の姿はなかった。
次の日、学校で会った史弥はいつもと変わらずだった。
あの情事が、夢であったのかと思えるほどに。
だけど、シャツから際どい位置に見える、あの時無意識につけた赤い跡が夢じゃなかったことを告げていた。
そして、あの事は封印されたまま。
俺達は卒業し、離れ離れになった。
「あれももういい歳だし、そろそろ身を固めてもらわないと………。いい話はあるんだが、なかなか決まらないんだよ。」
「……………そうですか。」
おじさんの何気ない話が、俺の胸を締め付ける。
ほら、こうやって。
お前と会わなくても、俺はお前の事を人を介して聞かされる。
俺は、これからもこうやって1人胸を痛めて生きていくんだろう。
果てしない。長い人生を。たった1人で。
だけど、現実は。
それより酷く、俺を地獄へ落とすことになる。
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