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いい声でお経を聞かされていても、思い出すのは生前の母ではなく、史弥との中学時代。
『仕方が無いんだ』
そう言いながら。一度だけを請われて、引き裂かれる思いでそれを受け入れた。
15年経った今でも、あの時の情事は忘れられない。
「……上総、お焼香を。」
「ーーーっ、ああ……。」
いつの間に、法要を終えていたのか。仏前から体をずらした史弥に、焼香を勧められて、前へ出る。
隣にいる史弥から香ってくる、家のとは違う線香の匂い。
………寺のお香なんだろうか。懐かしい香りだ。意識しなくても、あの頃に戻される。
……………パサり。
後ろから聞こえた、布が落ちる音。
振り向くと、後ろ向きで史弥が袈裟を脱いでいた。
「ーーーーーーっ、」
さっき、一瞬だけ見えた体の線が、俺を誘う。
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