第1章

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いい声でお経を聞かされていても、思い出すのは生前の母ではなく、史弥との中学時代。 『仕方が無いんだ』 そう言いながら。一度だけを請われて、引き裂かれる思いでそれを受け入れた。 15年経った今でも、あの時の情事は忘れられない。 「……上総、お焼香を。」 「ーーーっ、ああ……。」 いつの間に、法要を終えていたのか。仏前から体をずらした史弥に、焼香を勧められて、前へ出る。 隣にいる史弥から香ってくる、家のとは違う線香の匂い。 ………寺のお香なんだろうか。懐かしい香りだ。意識しなくても、あの頃に戻される。 ……………パサり。 後ろから聞こえた、布が落ちる音。 振り向くと、後ろ向きで史弥が袈裟を脱いでいた。 「ーーーーーーっ、」 さっき、一瞬だけ見えた体の線が、俺を誘う。
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