六月二十八日

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青年は大して驚いた様子も見せず振り向く。 「……お前か、色鬼」 「やっぱり連れないねぇ。ま、そこが好きなんだけど」 女が妖艶に笑いながら青年の腕に手を絡める。 しかし青年はぴしゃり、とその手を叩いた。 「冷たいねぇ。そんなに好みじゃないのかい?」 「見た目だけなら好みだな」 透き通るほど白い肌に牡丹の花のように紅い唇。 こてり、と首を傾げれば、美しい黒髪がさらりと誘うように揺れる。 ぞっとするほど美しい、という言葉がぴたりと当てはまる容姿を持った女だ。 青年もなにも知らなければ女に堕ちていたかもしれない。 あくまで【なにも知らなければ】の話だが。
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