六月二十八日

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「それが今日の分か」 「今日も大漁よ。ま、一番上等な奴には逃げられちゃったけどねぇ」 口調こそ残念そうだが、表情は愉快そうだ。 女の唇が三日月を描く。 血のように紅いそれから鋭く尖った犬歯が見えた。 「……お前、わざと兄貴をこっちに引き入れたな」 青年が女をさらにきつく睨み付ける。 その目には強い怒りの感情が宿っていた。 女はそれを飄々と受け流す。 「こちらに来たいと思ったのはあいつの意思。あたいはその願いを叶えただけさ」 「だとしても兄貴の色はまだくすんでねぇ。採るのは違反だろ」 「いやだねぇ。たまたま迷い込んだ奴の色を間違えて採っちまうことだってあるだろ?」 正論に屁理屈で返してくる奴だとは【あの日】からの付き合いで理解しているはずだが腹立たしいものは腹立たしい。 チッ、と忌々し気に舌打ちした。 女はにこり、とした笑みを崩さずに言う。 「それに気づいてないだろうけど、あいつがここに来れたのはあんたのせいでもあるんだよ」 そんなわけねーだろ、と噛み付こうとしたところでその言葉に真剣な響きが隠れているのに気づき、青年は眉を寄せた。 「どういうことだ」
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