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「お前はもう【こちら側】のモノだよ」
青年はぴたり、と足を止める。
「膂力は人間だった頃より増えた。電車を従わせる力も日に日に強くなってる。ホントは気づいてるだろ?」
「……」
青年は答えない。
女はなおも言葉を紡ぐ。
「お前がどれだけ拒絶しようが【こちら側】への変化は始まってる。もう【向こう側】へは戻れない」
「……」
「大切な人間を巻き込みたくないなら【向こう側】のものを捨てな。多少は縁が薄まるはずだよ」
「……うるせぇ」
「雨月(うげつ)、」
「オレは雨月じゃねーよ!」
青年がようやく振り向く。
そして憤怒と嫌悪が混ざった目で女を睨んだ。
それでも女は--少なくとも表面上は--冷静だった。
「名前だって縁の一つ。だからあたいは最初に【こちら側】での名前をあげたの」
「好きでもらったんじゃねぇ」
「そうよ、無理矢理あげたもの。お前を【こちら側】に繋ぐために。それにお前も『それでいい』と言ったじゃないか」
「あのときはそうしなきゃなんなかったからだ」
ホームに沈黙が降りる。
青年は女を睨み付けたまま、女は青年をじ、と見つめたまま、なにも発しない。
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