六月二十八日

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慣れない土地だったから実際は二〇分以上かかったと思う。 ようやく駅の入り口を見つけたのは携帯の地図を頼りに結構な量の荷物を抱えて歩いて「これならバスを待ってる方がよかったんじゃ」と後悔し始めた頃だった。 ショッピングモールの開店に合わせていままでは地元の住民しか利用していなかったものに合わせて改修工事を行ったのか、小さな駅の壁にはつい最近ペンキを塗り直したような跡がいくつもあった。 外では夕立が降り始めたのか、この時期特有の生ぬるい湿った風が改札まで吹き込んでいた。 帰宅ラッシュと重なったからか狭いホームには大勢の人がひしめき合う。 これは座れそうにないね、などと弟と軽口を叩いていたら電車が着た。 後ろの人に押されるように前に空いたスペースに足を進め、電車に乗り込み--- そこからは朧げな記憶しかない。 モノクロ写真から抜け出たように色褪せた人々。 どことなく不気味な雰囲気が漂う駅の数々。 発車する気配のない車両。 弟の後ろ姿。 自分以外の人がいない車内。 一切連絡のないスマホの画面。 突然閉まった扉。 こちらを見る弟とその隣にいる女性。 再び記憶が鮮明になるのは車両点検をしていた車掌に起こされてからだ。
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