六月二十八日

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そのあとは大変だった。 一緒にいたはずの弟がいない、とわめいて車掌を困惑させ(いま思えばあのときはかなり混乱していた)、乗車駅から終点までの各駅に弟らしき人物が下車していないかを確認してもらった。 実家に電話し、弟が帰ってきていないかを確認。 帰っていない、という答えに肩を落とし、車内で弟がいなくなったことを告げた。 絶句した母親に「詳しい説明を」と駅員が自分の代わりに両親と話すのをぼんやりと見ていた。 簡単な事情聴取を終え、家まで帰ろうとしてようやくここがまったく知らない場所だと気づいて、帰り道を調べて。 なんとか帰ってきたマンションの一室。 荷物を片付けもせずにベッドに倒れ込むと窓の外はうっすらと明るくなっていた。 きらり、と視界の端で朝日がなにかに反射する。 視線だけをそちらにやれば【なにか】の正体はすぐにわかった。 床に放り出された紙袋からはみ出していたそれは、弟に買ってやったブランド物のネクタイだ。 「…………」 充電器に繋がれたままのスマホを手に取る。 薄暗い部屋に突然点いた画面の光に目が眩んだ。
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