六月二十八日

27/34
前へ
/36ページ
次へ
その一方で颯太はあのときに見た不気味な駅についての情報を集めた。 あの場所のことがなにかわかれば、あの駅に行く方法---すなわち弟と再び会う方法がわかるのではないかと考えたからだ。 有力な情報を見つけたのはつい半年前だった。 とあるオカルト系サイトにあった、一つの怪異の話。 【鬼事電車(おにごとでんしゃ)】と呼ばれる都市伝説。 それは、発端となった地下鉄ができた頃からまことしやかにささやかれるようになった怪談話だった。 曰く、逢魔が時にその地下鉄を利用しようとすると奇妙な客が乗った車両に迷い込む。 そして乗客をさまざまな駅で降ろすのだ。 このとき、電車を降りてはいけない。 車両が止まるのは数々の【鬼事】の鬼が待ち受ける駅。 降りてしまえばその鬼事の参加者とみなされてしまうから。 終点までたどり着いた電車が動かなくなっても降りずに、ただじっと息を潜めていれば、電車は来たときとは逆の方向に動き出し、いつの間にか元の地下鉄に戻って来られる。 ただし、いつ電車が動き出すのかはわからない。 乗客を降ろしてすぐのときもあればいつまでも経っても動き出さない(この報告をした人は戻ってきたとき、記憶にある日付から一週間以上の日時が経っていたらしい)ときもある。 帰って来られるかは気まぐれな電車の気分次第だ、と戻って来られた人はまるで電車自体に意思があるかのように口を揃えていた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加