六月二十八日

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締切間際の案件にあったミスに昼ドラのような色恋沙汰が絡んだことから始まったその騒動はその他の小さなトラブルと連鎖してなぜか颯太のところにまで飛び火してきた。 確かに渦中の人とは顔見知りであったが、親しいかと訊かれればすぐに首を横に振るような関係だ。 なんとか一段落した現在でも巻き込まれた原因ははっきりしない。 しかし、まったく無関係と言っていい騒動に巻き込まれた事実とそれによる疲労だけはしっかりと残った。 そんな大規模トラブルの影響でピリピリしている職場に嫌気が差したとき、颯太は思い立った。 鬼事電車に乗って、弟に会いに行くことを。 試せばもう戻って来られない可能性もある、故意に鬼事電車に乗車する方法を実行することを。 方法を知ったときは躊躇したのにそのときはなぜか躊躇わなかった。 ちょうど一週間後が弟がいなくなった日だったから実行日はその日に決めた。 そして既に習慣となっていた弟へのメールにその旨を書いて、いつものように送った。 いつもとは違い《送信完了》の文字だけが画面に表れた。
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