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「いま思えば呼ばれてたのかもね」
電車に揺られながらぼんやりといままでに至る経緯を思い返していた颯太はぼやく。
あれだけ弟と連絡を取れることを望んでいたのに、あのときは感情が一切浮かんでこなかった。
返信こそなかったがそれでも連絡手段が確保できて、しかも一週間ずっとメールを送ることができていたのに。
それだけではなく、この一週間、日常生活でも本来浮かんでくるはずの感情が希薄だった。
表面上はいつも通りに振る舞えてもどこか他人事のような---ガラス越しに物事を見ているような気がしていた。
望んだのは鬼事電車に乗ることと弟にまた会うことの二つだけ。
また、心が動いたのも感情が浮かんだのもその二つに関してだけでそれ以外のことは心底どうでもいいと感じていた。
鬼事電車について調べる中で多少のオカルト知識を持つようになっていたから普通の状態ならそれが異常であること、さらに怪異と波長が合ったためにそちらに引きずり込まれる、怪異に【呼ばれている】状態であることにすぐ気づけたはずだ。
でも、颯太は気づけなかった。
弟によって再び電車に乗せられ、元の場所に送り返されるまで。
あの状態のまま弟と会うことなくホームから出ていたら、ということはあまり考えたくない。
【呼ばれている】状態というのは怪異に操り糸を付けられて動かされているようなもの。
怪異にとって都合のいいように感情を操作され、それが自分ではないモノによって植えつけられたものと気づかずに感情に従った行動をとってしまう。
そして気がついたら怪異の手中だ。
鬼事電車から降りた人がどうなるかは調べてもわからなかったということはつまり、駅に降りた人はこちらに帰って来なかったということだろう。
いまさらながら颯太の背筋に冷たいものが流れた。
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