第1章

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 朝はいつもギリギリだ。起きたらすぐにスーツに着替え、家を飛び出す。当然朝食を摂る時間も新聞を読む暇もない。  だからと言ってそれで済ますわけにも行かない。新社会人となった今、朝食は抜いたとしても、せめて時事問題くらいは頭に入れておかなければならないのだ。  幸い通勤時間は電車と徒歩を合わせて半時間ほどあった。その間にスマホでニュースのまとめサイトを閲覧することができる。音楽を聴きながらだと周りの雑音も気にならず、スムーズに頭に入ってくるから快適だ。    電車は目的の駅に滑り込む。スマホを片手にホームへ下りた俺は、人々の波をものともせず、一路会社へと急ぐ。小さな液晶画面に映し出されるニュースの見出しを次から次へとタップしながら。  大物政治家が路上でキス?そんな見出しに興味を惹かれたとき、メールの着信を知らせる音が鳴った。  いまどきメールなんて誰だ?などと思いながら受信フォルダを開く。 「お前が悪いんだからな」  そんな一文が目に飛び込んできた。  は?  なんだ?  相手のアドレスは見知らぬものだった。  それでもメールの内容が気になり、思わず「何が?」と返信する。  するとすぐに新しいメールが届いた。。 「お前が悪いんだ。前も見ないで、耳栓までして……」  前も……見ないで?  と思いながら小さな画面から視線を上げた俺は思わず足を止めた。  目の前に男がいたからだ。  男の衣服は真っ赤に染まっていた。  呆けた顔で男は口をパクパクと動かす。  何を言っているのかと思いイヤホンをはずした瞬間、耳を劈くばかりの悲鳴が俺の鼓膜を揺さぶった。  え?何?  と思うのも束の間、男は右手を一振りした。  男の衣服が、さらに赤く染まった。
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