紫陽花通りの門

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嘘だろう。 呆然と眺めることしかできなかった。 「昴、ありがとう来てくれて」 えっ、なんで名前を知っている? もしや、おまえは……。 「パッチか?」 「あはは、そうだよ。僕だよ、パッチだよ」 パッチは後ろ足で立ち人間のように歩いてきた。 しかも言葉を話しているじゃないか。 これはやっぱり夢なのか? 「言っておくけど、これは夢じゃないよ」 あ、そうなんだ。 なら、これはどう説明する? 「驚いているよね。僕は猫又だったんだよ。隠していてごめん」 「猫又?」 「そう、昴は知っているよね」 「ああ、知ってはいるが。本当に存在したとは……」 「そうだよね。妖怪は本当にいるんだよ。今の時代は人間に化けていたりする者もいるね。僕の場合は猫に成りすましていることが一番安全だからね。 そうそう、昴はもうこの事実を知ってしまったから外の世界へは出ていけないよ」 な、なに? ちょっと待て、そんな話は聞いていないぞ。 というかパッチは誘拐されたんじゃなかったのか? 「騙してごめんね。ああでも言わないと来てくれなかったでしょ。僕は昴が好きだから一緒に暮らしたかったんだ。 僕も、ここから出ることはもうできないからさ。昴に来てもらったんだ」 「そ、そんな……」 「昴も僕と暮らすことができて嬉しいでしょ。大丈夫、ここにも町はあるし普通に暮らせるから。ただ人間は昴だけになっちゃうけど。たぶん、ここには人間は来ることが出来ないから」 ここでずっと暮らすのか。 人間のいない町で。化け物しかいない町なのだろうか。 本当にここから出ることは出来ないのだろうか。
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