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連載を幾つか持ち始め、リサとの付き合いも順調だった。その頃、俺は話を膨らますためによく郊外の墓地を歩いた。
真っ暗闇だし独特の雰囲気はあるが何せ霊感0の人間だ。怖い思いと言えばせいぜいヤンキーの肝試しに出くわしたくらい。
後は……
俺が本当に最後にアサミを見た時……
生きてはいなかったけどね。
広い霊園の奥。
当時は分譲中の更地だった。
俺は別れ話がこじれた末に殺してしまったアサミの遺体を通常の埋葬よりもさらに土中深くに埋め、後でその土地を買った……将来、リサと入る墓所として。
義父は金には困っていなかったし都市部の霊園不足事情もよく知っていた。むしろ、死ぬまで添い遂げる誠意の証として喜んで買ってくれたよ。
立派な墓石つきでね。
これならもう、誰にもアサミの件はバレない。だけど、小説のアイディアどころか思い出したくない嫌な思い出が蘇っただけなんだが……リサの奴どういうつもりなんだ?
俺は抗議のつもりでもう一度リサ宛てのメールを打ち直し始めた。
ふと、思いあたる。
墓石?
墓石なんて、いつの間に誰が買ったんだ?
スマホの光で墓石を照らす。
「**リョウタ」
「 リサ」
俺達夫婦の名前。
おいおい、流石に度が過ぎないか?
俺は背中に冷たいものが走った。
(………………もしや)
アサミが何度か話した霊体験の前兆、ってこういう感覚なのか?
氷水のような汗がどっと吹き出し、重苦しい空気が闇の中で纏わりつき恐怖と金縛りで身動きがとれない。
……この感覚を小説にできたら、傑作間違いなしだろう。
しかし。
それは恐らく永久に無理だ。
俺の足首を掴んで、人外の力で地中に引きずり込もうとしているヤツがいる。固かった土があっという間に粘土のようにぐにゃぐにゃに崩れ落ち、俺は首の上まで埋まってしまった。
「うわあああああああああああああ!!」
俺は無意識のうちに腕を上げて必死でスマホだけを穴の外にかざした…………もはや無意味なのだが。
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