第1章

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ピンクの散る派手なサイトだった。 『ご利用にあたって、無料会員登録が必要となります』 規約にろくに目も通さずに、メールアドレスを登録した。 俗いう出会い出合い系サイトであるのは百も承知だ。 マイページというのはわりとシンプルなつくりになっていた。 「相手を探す」を決定すると、画面が切り替わった。 どうやら、今ログイン中なのは二人しかいないようだ。 一人は二十二歳、佐倉清美。プリクラ機で撮ったのだろう、黒縁の大きな目が顔全体のバランスを取る崩している。 もう一人は三十四歳、大山淑子。顔写真は設定されていない。 私は歳が近い大山淑子にチャットを送ることにした。 『こんばんは』 数秒たって、すぐに返信が来た。 『あら、こんばんは♪』 『歳が近かったので、チャットを送りました』 『ほんと、二歳年上でいらっしゃるのね』 私は胸にある疑念をストレートにぶつけることにした。 『淑子さん、あなたはサクラなんですか』 『まさか、わたくしも今登録したばかりですの』 『それはどうして?』 『先ほどメールが来ましてね 『どんな内容だったんですか?』 『あなたは今お悩みではありませんか?一人で考えたって、負のループは断ち切れません!さあ、同志を見つけましょう!ですって』 どうやら、何パターンか設定されたメールがばらまかれているらしい。 『淑子さん、あなたのアイデンティティを教えていただけませんか』 『あら、久しぶりに聞いたわ。学生以来かしら』 『ダメでしょうか?』 『構いませんけれど、まずはあなたからが筋じゃありませんの』 『それが全く浮かばんのです。私に届いたメールには、あなたのアイデンティティは何でしょうという文句が書かれてまして』 『あらまあ、そうでしたの。けれど、あなたアイディアという言葉の意味をご存知で?』 『確か存在理由とかじゃなかったでしょうか』 『正解よ。けれど、あなた自身への確信と言った方がいいかしら』 『そう専門的になるとちょっと』 会話が途切れた。 数分間、彼女は沈黙した。 私は煙草を二本ふかせた。
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