第1章

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『たすけて』  家でゴロゴロしていた俺に、たった四文字だけ入力されたメールが届いた。  アドレスは法則がわからない数字の羅列で、件名はない。迷惑メールだろうが、どこかに誘導するようなURLも添付されていない。『呪いのメール』という単語が頭をよぎったが、そんなオカルトに全く興味のない俺は、面白半分で返信をした。 『何に困ってるんだ?』 『寒くて死にそうです』  すぐに返信は返ってきた。ますます幽霊っぽい。いや、幽霊だったら『死にそうです』なんて言わないのか。もう死んでるし。  恐怖よりも会話が成立したのが面白くて、俺はまた返事をする。 『どこにいるんだ?』 『××公園です』  それは実家のある地元の公園の名前だった。小さいときによく遊びに行った。大きな池があって、鯉がいっぱい泳いでいたのを思い出す。  身近な名前を出されてしまい、少しだけ怖くなる。このメールの送り主は俺のことを知っているのか?実際にその公園まで様子を見に行ければいいのだが、俺はもう地元を出ている。大学に通うため都会で下宿中だ。  『どうして寒いの』 『服を盗られてしまったからです』 『誰に』 『クラスメイトです。服は池に捨てられてしまいました。濡れていて着れません』  いじめか、と俺は察する。時間を見ると、五時を回っていて辺りも暗くなり始めている。こんな夕方に裸じゃ寒いな。と俺はメールの画面を開きながら考える。たしか、あの公園は古紙回収スペースがあったはずだ。 『古新聞がたくさん積んである場所はないか?それにくるまれ。裸よりましだろう』  すると返信がピタリと止まった。実際に新聞紙を漁っているのだろうか。少し間を置いて、またメールが届いた。 『温かくなりました。すごい!さすが神様ですね』  神様?急に出てきたその単語に俺が首を傾げていると、触り続けていたケータイが突然着信した。 「も、もしもし!?」 『佐伯君のケータイですか?』  聞き慣れた声。バイト先の店長だ。…バイト!? 『今日シフト入ってるけど、どうしたの??』 「すみません!今行くんで!」  わけのわからないメールに気を取られて、すっかりバイトのことを忘れてしまっていた。俺は慌てて仕度を整えて、家を飛び出す。  バイトが終わってからメールを確認すると、最後のメールからすぐ後の時間にもう一通届いていた。 『ありがとう、神様』
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