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不思議なメールはそれからも届き続けた。
『ランドセルがありません』
『下駄箱の上は探したか?』
彼はほぼ毎日テンプレのようないじめを一通り受けていた。ランドセル、ということは小学生なのだろう。小学生でもケータイを持つ時代…。いや、小学生でもこんな陰湿ないじめにあってしまう時代か。
『親に相談した?』
『お母さんたちに心配をかけたくありません。』
そんな言い訳もテンプレだった。いじめられっ子にはいじめられっ子なりのプライドがあるんだろう。過去にいじめられた記憶のない俺には想像することしかできないが、彼の現状はとても辛いように思えた。
『今日は指を切られかけました。でも泣きませんでした。』
『やり返すことはできないのか?』
『僕は弱いからそんなことできません』
「彰浩君、レポート書いてる?」
はっ、と現実に戻される。そうだ、俺は今大学にいて講義の真っ最中だった。隣の席の香織が、俺の手元の真白なレポート用紙を見て眉をしかめる。
「いくら自習中だからって、ずっとケータイ触ってるのはどうかと思うよ。」
「面白いアプリでもあんの?」
逆隣に座る正行が画面を覗き込んでくる。
「ちげーよ、メールでいじめの相談受けてんだよ。」
「へー。甥っことか?」
「…まあそんな感じかな。」
「優しいんだね。」
香織が優しく微笑む。その笑顔にほんの少し良心が痛む。俺はそこまで親身に話を聞いてやれてるだろうか。どちらかというと野次馬に近い気がする。
「いじめってどうやったらなくなるんだろうな。やられたらやりかえせよって言ったけど、弱いから無理って言うんだよ。」
「さあ?俺達みたいのがすぐにわかれば、世の中からいじめなんてなくなってるわけじゃん?」
正行は軽口を叩く。香織はもっと真剣に考えなよ、と口をとがらせるが、俺も同感だった。
「じゃあ筋トレすれば?」
いいこと思いついた!と正行は俺のレポート用紙に筋トレのメニューを書き出す。
「ムキムキになれば、いじめられなくなるかもよ。」
「運動って気持ちを発散できるし、鍛えて損はないかも。」
「ストレス発散な!俺も高校の時よくサンドバック殴ってたけど、本当すっきりするから!」
ふーん。と俺はレポート用紙に書かれた筋トレのメニューを眺めていた。
いじめられっ子がその体を鍛え上げて、いじめっ子を返り討ちにしたら。それはすごく胸がすくだろう。
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