第1章

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 同窓会のために俺は久しぶりに地元に戻った。いじめられっ子に会えるかもしれない、とメールを送る。 『夕方から塾だけど、今は暇です。』 『公園まで来れない?』 『はい』  俺はメール越しではなく、彼本人に会いたくなっていた。味方がいると言うことを伝えたかったのかもしれない。会うことで死んだ佐々木の二の舞になることを防ぎたかったのかもしれない。  佐々木のいじめはほとんどの生徒が知っていたと思う。池に落とされたり教科書を破かれたりと、攻撃的なことをされていた。俺は止めるわけでもなく、傍からその光景を見つめていた。そのいじめは佐々木が死んで終わった。そして俺はそれを忘れていた。  歩道橋を渡って、国道の向こう側に公園はある。俺はまっすぐそこにむかった。  公園は、なかった。  俺が公園があったと記憶していた場所にはマンションが建っていた。間違えたか?とケータイで地図アプリを開く。しかしここはマンションで、公園なんて存在していない。  俺は靖男にメールを送った。あの広い池と大きい木がたくさん生えた、思い出の公園はどこに? 『××公園?それなら3年前に火事があって全焼したよ。再開発で、跡地にはマンションが建ってる。』  靖男からの返信に、なおさら訳がわからなくなる。いじめられっ子からのメールはつい最近届きだした。公園の池に彼は落とされたとメールにはたのに。彼はその公園の木で体を鍛えているのに。 『公園に来ました』  メールが来た。俺は公園の名前を検索する。日本全国よく似た名前はあるけれど完全に一致する公園はない。 『そこって×県の××公園??』 『はい』 『今、何年何月何日?』  いじめられっ子がいう日付は合致していた。ただ、十年以上前の、今日の日付だ。 『どうしたんですか、神様』 『十年前にはケータイなんてないだろ』 『携帯?何を携帯するんですか?』 『お前、どうやってメールしてんの?』 『僕には、神様の声が聞こえています』  俺はいじめられっ子のアドレスを見る。よくわからない数字の羅列だ。 『僕が心で思ったことが、神様に伝わっていて、神様の声が、僕に届いています』  このアドレスに打ち込んだ言葉は、過去のいじめられっ子の脳に受信されている? 『お前って、Sか?』 『イニシャルですか?はい。僕はSです』  俺のケータイには、死んだ佐々木からメールが届いていた。
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