第1章

6/10
前へ
/10ページ
次へ
 意味が分からず、俺は軽くパニックになったた。過去、しかも死んだ人間からメールがくるなんて。ありえない。いたずらか?でも今までのやり取りを全部デタラメだったとするには、あまりに手がこみすぎている。きっと佐々木本人だ。俺は直感に従うことにして、彼のメールから読み続ける。 『神様は、やっぱり僕を見守っていてくれるんですね。だから僕は頑張れています。ありがとうございます』  佐々木はそう答える。素朴で優しい印象を受ける。俺の記憶の中の佐々木もそうだった。大人しくてされるがままだった。突き飛ばされて、転ばされて、笑われていた。 『神様からトレーニングを言われたから、昨日も僕、突き飛ばされたけど、ふんばれました。僕が倒れなかったから、向こうは少し悔しそうな顔をしていて、ちょっと嬉しかったです』  メールを見て、もしかしたら過去を変えられるんじゃないか?と俺は考える。俺がこのまま佐々木を励ましたら、佐々木はいじめを克服できるんじゃないか?そして、重大なことを思い出す。 『お前、今日』  死ぬぞ。そう送りかけた指は、何とか途中で止まってくれた。靖男が言っていた。同窓会の日が佐々木の命日だと。同窓会は今日の夜だ。これから鍛えても遅い。佐々木は今日これから死んでしまう。 『公園に来てくれてありがとう。お前のことがよくわかった』 『凄いですね。さすが神様です。公園に住んでいる神様なのですか?』 『そんなところだ。ええと、これから塾だっけ?』 『はい。これから塾に行きます。塾のみんなは僕をいじめないから好きです』 『電車で行くのか?』 『はい』  嫌な予感がする。佐々木はいじめられて自殺した。誰も味方がいなくて、現実に耐えられなくて自殺した。と、思う。だって、当時佐々木と仲良くしてた人間なんて俺は知らない。 『死にたいか?』  直球に聞く。死にたいほど、思いつめていないか? 『いいえ』  佐々木は否定した。死を否定した。 『神様がいなかったら、死にたいと思ってたかもしれないけれど、神様がいたから、僕は、死にたいと思わなくなりました』 『そうか。死ぬなよ。絶対だ。』 『はい』  彼は肯定した。もしかしたら今日の同窓会には死ななかった佐々木が来るかもしれない。過去が変わって、現在も変わるのかもしれない。俺は家に帰って、はやる心を抑えつつ、身支度を整えると同窓会に向かった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加