第1章

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 同窓会にはたくさんの人間が集まっていた。てっきり一クラスで集まるのだと思っていたけれど、学年で集まったらしい。飲み屋の二階を貸し切っての、大所帯だ。 「よお、久しぶり。」  靖男は真っ先に俺を見つけて声をかけてくれた。卒業してから何年もたってしまったが、たしかに当時の面影がある。 「お前老けたな。」 「うっせーよ。」  そんなやりとりをしていると、当時の友達が集まってくる。懐かしいメンバー。まるで小学生に戻ったみたいだ。ゆっくり酒を飲んで、語り明かそうか…と席についた途端、ケータイが強く揺れた。佐々木だ。 「佐々木って来てるか?」  俺は靖男に尋ねる。靖男は首をかしげた。聞き間違えかと思われたらしい。 「佐々木は明日、線香あげに行くって話だろ。」  俺の現実では佐々木は死んだままだ。俺はメールを確認する。 『たすけて』  一番最初に貰ったのと同じ内容のメールが表示されている。 『追いかけられています。怖い』  ただ事ではない雰囲気を感じ、俺は靖男と友達に言って席をはずし、ケータイを持ってトイレへ駆け込んだ。 『怒鳴りながら、追いかけてきます。駅の改札で見つかって、また突き飛ばされたけど、転ばなかったら、生意気だって、追いかけてきます』  まざまざと俺の脳裏には佐々木の現状が浮かんだ。地元の駅は小さくて、当時も今も線路とホームの間に柵などはない。両側を線路に挟まれたホームは離れ小島のようで、走り回ると落ちてしまうと親によく注意された。もしかして、佐々木はいじめっこに突き落とされて死んだんじゃないか? 『こわい。誰もいません。追い掛けてくる』  ホームに駅員がいることは少ない。もし突き落されても、監視カメラなんてものはない。事故、自殺の扱いにされる。佐々木はいじめっこに殺されていた? 『押される。怖い。落ちます。嫌だ』  メールから、ホームの端で相手と揉み合いになる佐々木の姿が浮かんだ。 『たすけて神様』  俺は、素早くメールを打った。 『突き落とせ』  いじめっこを、突き落とせ。送信できた後も、俺はしばらくケータイをぎゅうと握っていた。 「彰浩、生きてるか?」  コンコン、とトイレのドアが鳴った。靖男だ。 「悪い悪い。急に腹が痛くなってさ。」  同窓会は開始された。佐々木は、現れなかった。メールも、なかった。
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