第1章

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 同窓会の次の日、俺と靖男と、あと数人の元同級生が集まって、佐々木の線香をあげにいくことになった。昨日の同窓会に集まった人数を思うと、随分と少ない。いじめられっこだった佐々木には友達はいなかったから無理はない。靖男も同級生のよしみで参加しているのは明らかだった。あれから佐々木からのメールはない。やはり、いじめられっこに突き落とされて死んだのだろう。過去は変えられないということか。どうしようもなかったと思う。けど、とてもやるせない。俺は当時の佐々木ではなく、つい昨日までケータイの向こう側にいた佐々木の為に、線香をあげるつもりだった。 「でも、お前が佐々木の線香をあげに行きたいなんて言うとは思わなかったぜ。」  靖男がしみじみと言う。その言い方がひっかかって、俺は首をかしげてその意味を聞く。 「いくら付き合いがなかったからって、その言い方はないだろ。お前だって義理で行くわけだし。」 「俺はお前が行きたいから付き合ってるけど、お前は付き合いがなかったわけじゃないだろ?…いや、付き合いって言い方はおかしいけどさ。」 「なんかさっきから引っ掛かるな。どういう意味だよ。」  すると靖男は、怪訝そうな顔で俺にこう言った。 「だってお前、佐々木にいじめられてただろ?」  は?いや、え?頭の中が真っ白になる。いやいや、佐々木は…。 「佐々木はいじめられてた側だろ?」 「何言ってんだよ。佐々木はいじめっこだろ。いじめっこなんて言い方が生易しいくらいのクソ野郎だったじゃねーか。お前、目の敵にされて、裸にされて池に落とされたり、教科書さかれたり、色々やられてただろ?」  靖男が何を言っているのかわからない。それは佐々木がされてたことであって、そこに俺は関係ない…。 「だってお前、まだ傷痕残ってるし。カッターで指の付け根切られて、未だに引きつるからうまくメールが打てないって、前言ってただろ?」  俺は自分の手をまじまじと見た。親指の付け根に、蚯蚓腫れがある。試しに曲げてみるが、じんわりと妙な痛みが走る。そうだ、俺は指がうまくうごかないからメールが苦手で…。ふと、佐々木…Sからのメールを思い出す。『指を切られかけました』と、確かそんなメールを前に貰った。 「そんな。俺が?」 「嫌なこと思い出させたな…。」  すまなそうに靖男は首を振った。
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