第1章

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まるで天が人に怒りをぶつけるが如く、雷が降り注ぐ大雨の日、時刻は夕方から夜に変わろうとしている。 ビルが所狭しと立ち並ぶ街は、ときおり雷の光で不気味に明るく照らされている。 大雨と雷の音が窓の外から聞こえてくる、マンションの一室。 二十歳前後に見える眼鏡を掛けた男が、携帯電話をいじっている。 チャットアプリを使い、会話中だ。 > 「雷まじやべーわ」  「こっちも鳴ってる、こえーなー」 <  「ところでさ、明日も明後日も授業ないじゃんか、どっか遊びに行かね?」 < > 「いやー、パスするわ。めんどくさいし、どうせ雨降るっしょ」  「おっけーおっけー、また誘うわ」 < 一人暮らし用の部屋、間取りは1K。 ベッドとテレビと本棚、とくに趣味らしきものが見当たらない部屋。 男はベッドに転がり、カーテンの隙間から漏れてくる雷の光と轟音にやや怯えていた。 その時。爆弾でも爆発したかのような破裂音、地面に何かが着弾した感じ。 大気が震え、地面が震え、部屋が震える。 反射的にガードの体制を取り体を丸くする男。 電気とも振動とも音とも形容しがたい何かが、男の携帯電話にまで伝わった。 そして停電。 部屋の明かりが消え、ただただ大雨の音と雷が恐怖を掻き立てる空間。 「おいおい停電かよ、勘弁してくれぇ。ブレーカー落ちたかな? 電線ごと切れたとかは無いよなぁ・・・」 不安で少し震えながら、携帯電話を手に持ち、その明かりで廊下まで向かう。 携帯電話で照らしてみると、ブレーカーが「切」の方に倒れている。 「ああ、落雷のなんかでブレーカー落ちちゃったのか、まったく」 手を伸ばすが届かない、ブレーカーの位置が少し高い。 ブブブ、ブブブブブ 「うおぁあっ!」 携帯にメールが着信したらしい、驚いた男は携帯を落としゴトッという音を立てた。 「ビックリしたわ! タイミング悪ぃーよ、誰だよ」 > 「はじめまして。貴方の携帯電話に住むことになりました。よろしくお願い致します。短い間ですが」 「なんだスパムメールか、鬱陶しい」 男は気を取り直し、近くにあったホウキの柄でブレーカーを切り替えた。 ジジジッと電灯が不快な音を立て、部屋に明るさが戻った。 気づけば雷の音はなくなり雨脚も弱くなりつつあった。 「腹減ったな、なんか買いにいくか」   ◆◆◆◆◆ ガチャリと、玄関のドアが開き、傘を刺した男が帰ってきた。
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