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男は新しいおもちゃを手に入れた子どものように、目を輝かせながら、携帯電話を右腕にあてがった。
ビリリっとやや強い電気の衝撃が走り、少し驚いて右腕を見たがとくに変わりないようだ。
男は辺りを少し見回し、財布を見つけ、その中から500円玉を取り出した。
「これは、さすがに、潰れないよなぁ・・・」
グググググと500円玉を握りこむ。キリキリと金属が歪む音が微かに聞こえ、手の中で形状が変わるのを感じた。
「おいおい、マジかよ! すげぇ! いてて」
開かれた男の掌の上で、500円玉はぐにゃりと複雑な形に潰れていた。
と同時に、男は右腕の筋肉にわずかな痛みも感じていた。
ブブブ、ブブブブブ
>「どうでしょうか。これが人間の本当の力の、ごくごく一部です。貴方の小さな知性でもこのすごさが理解できるでしょう」
「これはすげぇよ! っていうかおまえ、いちいち悪口みたいなの付けるなよ。バカバカ言いやがって」
ふ、と男の脳裏に何かがよぎった。
全てを変える、一つのアイデアがよぎった。
「おい、俺はこんな話も聞いたことあるぞ。人間は脳みその一部しか使えてないって。おまえ、もしかして、もっと使えるようにできるんじゃねーのか?」
ブブブ、ブブブブブ
>「同じことです。腕と同じように、頭にこの携帯電話を当てていただければ。お終いです」
「まじか! まじか! いいねぇ、いいねぇ」
男の気持ちは昂ぶり、もはやこの不思議な存在の虜になっていた。
男は、さきほどの腕への電撃を思い出し、少し躊躇しながら、携帯電話を、頭に、当てた。
ビビビビビッ
先程より強い電撃を感じ、男は気絶した。
◆◆◆◆◆
「はっ!」
男は目覚めた、寝ぼけ眼ではない驚くべき明瞭さで。
気づけば朝になったようだ、カーテンから控え目な光が漏れ、今日も曇りであることを告げている。
「すげぇ! すごいスッキリしてる! よく眠れた感じがする、すごい充足感だ!」
快晴の空のように晴れやかな頭で、男は部屋を見回した。ある違和感を感じた。
「あれ、あれっ、俺、今、眼鏡かけてないよな・・・・、見える! すげぇ! そうかそうか、眼も筋肉で動かすんだもんな」
急激に視力が低下し眼鏡が必要不可欠になっていた男は、裸眼で焦点の合う世界を満喫していた。
感謝の気持ちを伝えようと、男は携帯に目を留めた。気絶した後にメールを受信していたようだ。
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