2人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
黒のネクタイの結び目がYシャツの襟をハネ上げ、
ズボンの裾が革靴のかかとの内側に潜り込んでいる
左腕にはめられた金色の腕時計は、
ベルトのメッキがはげかけて、
シルバーに近かった
彼は券売機の前に立ち、
路線図型式の料金表を睨み着けたままだ
その大きな体の陰に、
いつのまにか小さな人影がひとつ
もしかしたら、
初めからその人は、
そこにいたのかもしれない
和装の喪服を着込んだその人は、
腰の曲がりかけた老女だった
最初のコメントを投稿しよう!