親友から

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俺の親友には、妄言癖がある。 いつからかは分からないが、なんの脈絡もなく突然に言い出すのだ。「月が落ちてくる」やら「虫が巨大化して街を壊す」やら、はたまた「海が干上がる」など。 そうやって数日騒ぎ立て、いつの間にか静かになっている。あいつを知っている奴らからすれば、その妄言は一瞬の名物みたいなものだ。あいつがしばらく大人しくしていると、そろそろ言い出すんじゃないかと皆して楽しみにしている。 かく言う俺も、あいつの妄言を楽しみにしていたりする。あいつの妄言は突拍子がなくて、かえって面白味があるのだ。 …そんな事を、定規片手に考えていた昼休み後の授業中。脳内話題のあいつは、学校を休んでいる。別に熱や風邪とかじゃあないと思う。だってあいつ、昨日俺と一緒に遊んでたし。 《ガラッ》と教室の戸が勢い良く開かれる。授業をしていた先生を含む、クラス内全員の視線が開かれた戸に集中する。 息も絶え絶えに教室に飛び込んで来たのは、俺の親友であり、脳内話題の中心でもあったあいつだった。 今日学校を休んでいる奴が突然教室に飛び込んで来たら、だいたいの奴は呆気にとられることだろう。このクラスも先生も例外ではなく、あいつが息を整えて言葉を発するまで誰一人として喋らなかった。 「なめこ星人が地球を襲いに来るぞっ!」 次の瞬間、また別の理由でクラスは呆気にとられていた。俺も一緒になってポカーンとしていると、あいつが俺の肩を掴んで揺さぶりだした。 「冗談じゃなくて、ホントに!俺昨日見たんだよ、なめこの形してて、空を凄い速さで飛んでた宇宙船を!」 今回は随分と細かい設定だな、などと思っていたら、あいつは俺の肩をさらに強く掴んで揺さぶる。 「奴らは、寄生型の宇宙人なんだ。俺達人間の精神を乗っ取ってこの星を征服するつもりなんだ!今は月を侵蝕していて地球はまだ無事だが、このままじゃ俺達人類は全滅する!」 しっかり考えてあるな、なめこ星人説。そう言おうかとも思ったけれど、あいつの手が俺の肩に食い込んできていてちょっと痛いので止めた。
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