親友から

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「だから早くなんとか…って、なんでお前らそんな平然としているんだ?」 ふと周りを見たあいつは、周りの反応に戸惑っているようだ。まぁ、この場にいる全員、なめこ星人説をいつもの妄言だと思って面白がりつつ聞いているからな。 「じょ、冗談とかじゃないから!ホントだって、俺ホントに見たんだって!」 あいつは少しうろたえながら叫んでいた。ここまで必死なのは初めて見たかもな。 「…ど、どうなっても俺は知らないからなっ!」 何度か叫んでいたあいつは、最後にそう言って、とうとう教室から飛び出してしまった。 教室内がしんと静まり返り、少ししてから先生によって授業が再開された。 あいつを少し気の毒だとは思うが、普段が普段だからなめこ星人説は冗談としかとられないだろう。だがなんであんなにも必死になめこ星人のことを引っ張ったのか…。 「まぁ…しょうがないよな」 俺は小声で、誰にも聞こえないようにぼそりと呟く。 「だって、俺がなめこ星人なんだからな…」 結論から言って、あいつの話はほぼ本当だ。月の侵蝕は終わっているけども。俺達なめこ星人は、少しずつ人類の精神を乗っ取っている。あいつの親友だというこの肉体には、もう今までの記憶くらいしか残っていない。あいつの親友とは別物だ。 本当なら昨日、あいつとこの身体の精神を乗っ取るはずだったのだが、何故かあいつの精神に俺達は干渉できず、この身体だけ乗っ取ってしまったのだ。多分、精神干渉をした際にあいつに俺達のことが少々伝わってしまったのだろう。 俺達は、乗っ取った肉体の記憶を見ることができて本当に良かったと思っている。そうじゃなきゃ、あいつは親友であるはずの肉体の中身がおかしいことに気付いただろうし、俺達のことにも感づいただろうな。 しかし、宇宙船を見られたのは失敗だったな。後で誰かに連絡を回しておこう。 そうこうしているうちに、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り出した。俺は早く帰りたいなと一人呟いた。 早く帰って、あいつの家に行こう。俺達の精神干渉が通じない人類なんて、なんと貴重なサンプルなのだろう。 「俺達が地球を掌握するまで無事でいてもらわなきゃな」 後であいつに会ったらなんて話しかけようか。うっすらと見える月と星の下、そう思いながら俺は帰路へとついた。
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