74人が本棚に入れています
本棚に追加
「ハハッ、君には負けたよ。なかなか肝が据わっているじゃないか」
笑顔でそう言うと、周りの従者の皆も安心したように顔を合わせたり、頷き合う。
「リエク様」
これからどうしたものかと考えていると、不意に従者達の中から若い女性の声が聞こえた。
「なんだ?」
リエクが訊ねると、「少し提案したいことがあるのですが…」と言いながら前に出る女性。
縦ロールにしているエメラルドグリーンの髪に人形のように整った顔立ち、着ているメイド服は黒を基調とした物で、袖・襟・スカートの裾に白いフリルがあしらわれたデザインだ。
「提案?」
「ええ、そこに居るカオル様のことに関する提案です」
振り返り、ニコリと笑みを向けてくるメイドさん(仮)。 あ、どうも。
軽く会釈するとリエクの方に向き直り、
「ここまでしっかりと自分の意志をお持ちになっているお方は転生した人間の中でもほとんど居ません。それに意志の強さだけでなく優しさも持っている。そこで私は思いました、こんなに素晴らしい方に従うことが出来たら幸せだろうと。いや、是非従ってみたいと」
え、従ってみたい…従ってみたい?
内心「まさか」と可能性を危惧していると、チラリと私に目をやりながらメイドさん(仮)は何故か頬を赤らめ、
「ね、カオル様?」
と、言ってきた。…………いやいやいや。おかしい、明らかにおかしい。
待ってよ、確かにこの小説は「テンプレ通りじゃありません」みたいなこと言ってたけどさ、あまりにアブノーマルな展開というかイレギュラーな事態というか、そもそも私とメイドさんは女同士であって………
「まさかお前から『従ってみたい』という言葉を聞けるとはな。…いいだろう、今この場をもって宣言する」
「え、ちょっと、あの…リエクさん?」
混乱のあまりさん付けで呼んでしまう私、だが時既に遅しだったようで。
「“エメリー・メイヴル”、お前がカオル専属の従者となることを直々に認める」
「…ありがとうございます、リエク様」
あ、もうダメなパターンだなこれ。
最初のコメントを投稿しよう!