第1章

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とクマの少女が言うのと、同時だった。山都の背後にゾワリと巨大な殺気が迫ってきたのは、 「タナを、離せぇ!!」 グンッと片足を振り上げ、裕樹が迷うことなく振り下ろした。寸前で山都は避ける。田奈は、クマっ子が保護して無事だった。姿や声は、変わっても、そこにいるのは高間裕樹だ。    「落ち着けっ!! 裕樹、俺は田奈を傷つけたりなんか──」 「うるさいっ!!」 接近し、鋭い爪で振り回して裕樹は暴れ続けた。山都の言葉が通じていない。どころか山都と認識すらできていない。今の彼にあるのは、田奈を助けることだけだ。 鋭い爪を避けながら、山都はどうするか考えていた。相手が通り魔だったら、迷うことなく殴れたけれど、相手は小学生の裕樹だ。いくら力で強化していても、小学生の身体を傷つけるわけにはいかない。 その迷いが山都の隙となった。爪が効かないと悟った裕樹は、トンッと距離をおきながら思いっきり空気を吸い込んだ。胸が膨らみ、ドンッと胸を叩き、山都の身体を不可視の弾丸が叩き込まれた。 空気だ。裕樹は、肺、一杯に溜め込んだ空気を叩くことで弾丸のように飛ばしてきた。貫通はしないが、当たれば、相応のダメージをくらうだろう。裕樹は、次の弾を打ち出そうと大きく息を吸い込んだ。 迷いを振り切り、山都は地面を蹴る。悩んでいればこちらが殺される。一撃、裕樹を気絶させる一撃で仕留めるしかない。空気を吸い込む、裕樹が次の弾を打ち出す前に山都は接近したが、裕樹は口の中の空気を一気に吐き出し、山都の接近を阻害し、 「ガァァァァァァアアアアアアアアア!!!!」 口を開けて、山都の腕に噛みついた。狼の牙が山都の腕を食いちぎろうと、牙を押し込んでくる。無理に引き剥がそうとすれば山都の腕の肉ごと食いちぎってしまう。 「ごめんな、裕樹。ちょっと痛いかもしれないけれど、我慢してくれよ!!」 フンッと噛まれた腕に力を込めると、山都は裕樹の身体を持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。その拍子に裕樹の顎の力が抜けるが、彼は叩きつけられる寸前に山都の脇腹を蹴り飛ばした。迷いのない蹴りが山都の脇腹を抉り、内臓を痛めつける。口の中に血の味が混じった。 「タナを、タナを、キズツケルナ!!」 ゴロゴロと地面を転がっていく、山都にさらに追撃の一撃を叩き込み、裕樹は叫ぶ。何度も、何度も、相手が動かなくなるまで執拗に蹴り続ける。
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