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肉が裂け、返り血が裕樹を真っ赤に染めた。地面に叩きつけられた時の痛みもまったくなかった。おそらく、手加減されていた。裕樹が傷つかないように、絶妙な力加減だった。でも、そんなことはどうでもよかった。今は田奈を殺そうとした相手を叩き潰す。ずっと心の奥底に押し込めていた快楽が裕樹を支配する。
強者。圧倒的な強者だ。勝てなかった相手を下から引きずり落として、踏みにじる。裕樹は自然と笑っていた。
「これは、これは正しいことなんだ。田奈を」
「「田奈を救うためならなんだってしていい」」
と裕樹の言葉に重ねるようにして、突然、現れた青色の着物に白髪の少女が言った。ギロリとそちらを睨みつけるが、少女は怖がる素振りも見せずに言った。
「なんて言うのは、子供の理屈だ。鼻で笑ってやりたいね」
「どういうイミだ」
「そのままの意味だよ。今の君は戦ってるんじゃない。傷つけられる相手を一方的になぶってるだけだ」
少女は言う。
「正しく使うのが力、間違った力は、ただの暴力。さて、君はどっちかな? 田奈を助けるなんて言っておきながら君は殺しを楽しんでいる」
あそこに転がっている、通り魔と同じだと少女はきっぱりと言い放った。裕樹はブンブンと首を横に振り、
「違うっ!!」
違う。自分は田奈を守りたかっただけだ。裕樹の母親と、田奈の母親は同じ日に生まれた。それは運命的なものだ。同じ日に生まれ、同じ時期に結婚し、子供を授かった。
それが田奈と裕樹。まるで、年に一度しか会えない織姫と彦星が、出会うように、生まれ変わってもう二度と別れないと誓ったような、なんて言うのは馬鹿げているかもしれないけれど、
「俺は、間違ってなんかいない!!」
裕樹は叫んだ。この力は田奈を守るために授かった力なのだ。だから、他人を傷つけたって構わない。ギュッと伸びた爪を見つめ、長く伸びた爪は真っ赤に染まっていた。間違ってなんかいないはずだ。
「ジャマするんだったら、あんただって容赦しない」
牙を剥き、爪を構えた。こんな少女くらいすぐに斬り裂ける。
「いいや、君の相手はそこにいるよ」
少女はゆっくりと指さした。裕樹は振り返る。腹を何度も蹴られ血を垂れ流しながら山都大聖は立ち上がった。ギラリときらめく鋭い眼孔が裕樹を射抜き。拳を握りしめ
「いってーなぁ!! この野郎が!!」
思いっきり裕樹の頬に拳を叩き込んだ。
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