第1章

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顔の前に持ってきた腕を高く振り上げると、山都はそのまま通り魔の頭上に叩きつけようとしたが、即座に後ろに下がることで避けた。ギリッと後ろに下がりつつ、通り魔は地面を蹴り上げて、山都の背後ををとった。 「チッ!!」 「お前も、俺と同じ力を持ってるんだなぁ」 が、ニヤニヤと通り魔は笑った。山都の背後をとったはずなのに、通り魔は何もしてこない。 「どういう気分だ? そんな気味の悪い力を持って、毎日、毎日、怯えてるんじゃないのか?」 「あぁ? いきなり何を言い出すんだ」 「人って言うのは残酷な生き物なんだってことさ。自分と違う。異質な力を持ってるだけで嫉妬と迫害の対象になってしまう。俺も、お前も、一緒だってんだよ」 陰惨に笑った。その笑みには、悲しみが隠れていそうだったけれど、 「あのガキを見てると、俺は昔を思い出す。何も知らないまま、気味の悪い力を押し付けられて、訳も分からずに逃げてた自分がなぁ。同情するよ」 「だったらなんだ」 山都は言う。はっきりと言い放った。 「お前が何者なんかなんて、どうでいい。不幸でも、なんでもどうでもいい。けど、あんたなんかに同情されたって裕樹はちっとも嬉しくないだろうさ」 「なんだ。同じ力を持つ者同士、馴れ合いか。虫酸が走るぜ」 通り魔は、四つん這いになった。 「同じ力を持つ者、同士、仲良くできないもんだなぁ!!」 シュンッと土煙を撒き散らしながら、通り魔は走った。目には見えないほどの速度で走り、土煙にまぎれて山都の首を狙う。喉元、引き裂いて即死させてやる。 同じ力を持つ者、同士。山都はその言葉に胸が重くなった。通り魔に同情しないし、するつもりもないが力を持つ者と対峙するたびに思う。どいつもこいつもなんて悲しい顔をしてるんだ。 得体の知れない力に翻弄されて、道を間違えて、取り返しのつかない失敗をしてしまう。この男だって、最初からこんな力、欲しくなかったのかもしれない。正しく力を使うってのは、難ししく、一歩でも間違えれば、それは暴力になってしまう。   ギロリと通り魔の爪が山都の首筋を狙った。ふぅーっと山都は息を吐いた。 「間違えれば、正してやればいい。右も左もわからずに、泣いてる奴がいたらそっと手をさしだして導いてやればいい」 ゴリッと山都は通り魔の顔面に拳を叩き込んだ。ゴホッと吹っ飛ぶ通り魔が地面を転がっていく。
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