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裕樹の心に傷を刻んでいた。あれ以来、自宅にも帰らず、田奈にも会っていない。
「もう、俺なんてどうでもいいだろ? 山都の兄ちゃんや、通り魔を傷つけた俺を怪我の手当てをしたり、家に泊めることなんてない!! 俺はここを出て行く!!」
一人になりたいと、裕樹は思った。あの力、狼のようなあの力を使っているうちはよかった。ただ、使えば、使うほどどんどん自分が自分でなくなるような気がした。通り魔も、山都も、皆、敵だ。全て殺すしかない。無駄な思考が削ぎ落とされて、純粋な殺意のみになっていく。鋭利なナイフのように削がれていく。今回は山都のおかげで力を抑え込むことができたが、今度も抑え込むことができるかわからない。
「出て行くって、どこに行くつもりなんですか」
真朱が聞いてくるが、その言葉や慰めが裕樹をさらに苛立たせた。
「うるさいっ!! お前には関係ないだろ!! つーか、その言葉遣いムカつくんだよ!!」
普段だったらこんなことは言わない。冗談や場の空気を和ませる為のギャグを言うことはあっても、相手を傷つける言葉だけは言わないようにしていたのに。
「大人ぶって気持ち悪いんだよ!! そうやって慰めようとするのも、内心じゃ不幸な相手を見下して笑ってんだろ!?」
一度、口にした言葉は止まらない。真朱の両目に涙が浮かぶが、
「親がいないっていいよなっ!! 好き勝手にできて、こんな広い家もあって、自由で……」
パンッと音が聞こえたのは、右頬をぶたれたと気づいたあとだった。ハァハァと荒い吐息を繰り返しながら、真朱が裕樹を睨みつけていた。
「なにすんだよ!! 痛いじゃないかっ!!」
「貴方みたいな分からず屋にはこうするしかないとおもっただけです!!」
「男の俺に喧嘩を売るつもりか!!」
「そのつもりです!! 出ていたいのなら勝手に出ていけばいいんですよ。貴方みたいな人──」
真朱は言った。
「死んじゃえばいいんです!!」
「テメェ、言っていいことと、悪いことがあるぞ!!」
「言わせてもらいますよ!! 他人の優しさだけに頼って、それが無くなった途端にブチ切れる人なんて、いなくなったほうがせいせいします!!」
投げられたお盆を拾った、真朱は裕樹、めがけて思いっきり投げた。女の子が投げたと油断していた裕樹は、上手いフォームで投げられたお盆が眉間に叩き込まれる。ゴリと裕樹の眉間にぶち当たった。
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