第1章

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眉をひそめる、田奈になんでもないですよと二人、揃ってナイナイと両手を振っていると、玄関の戸が開き、金髪に古いジャージの少年がひょっこり、顔を覗かせた。 「どうしたんだ? お前達、玄関で騒いでって、お前、田奈、デッカい荷物だな。旅行でもするのか? いや、家出か?」 家出かぁ、あんまり無茶するなよとケラケラと笑う、山都大聖(ヤマト、タイセイ)に田奈は、クルリと振り返り、 「旅行。そうね。旅行がいいわ。山都さん、私を、どこかに連れって。とにかく、遠いところがいいわ」 と言った。わぁと背後で真朱と揚羽が悲鳴をあげるが、山都は、田奈を荷物ごと、抱え上げると、そのまま屋敷の中に入っていき、一つの部屋に連れ込んだ。 「連れてきたぞ。遠いところ。で? 何があったんだ」 田奈の荷物を部屋の隅っこに置きながら、山都は正座する田奈に聞いた。 「大丈夫、他の奴には話さないし、吐き出してしまえよ。そのほうがスッキリするぞ」 「約束」 「ん? 約束」 「裕樹のバカが、約束、破ったの。七月七日はお母さんの誕生日だから、一緒にプレゼント、選ぼうって約束してたのに、あのバカ、用事があるからって……毎年、ちゃんと祝ってたのに……」 「お、おお、泣くな。うん。そうだよな。約束してたんだよな。ヒドイ奴だな。裕樹は」 大粒の涙を浮かべる、田奈をなだめつつ、山都は横目で部屋の隅っこに置かれた荷物を見た。約束を守らなかっただけで、家出なんてと思うかもしれないが、彼女にとっては大切なことなんだろう。田奈がスンスンと鼻を鳴らしながら言った。 七月七日は、裕樹と田奈の母親の誕生日で、彼女達は生まれた時からずーっと仲良し、結婚しても良好な関係を続き、誕生日にはお互い、贈り物をしているらしかった。こういう運命的な関係が田奈は好きだった。だから、裕樹にも同じように祝ってほしかったのだ。 「なのに、あのバカ。他に用事があるからってすっぽかすなんて信じられない!!」 ムーッと頬を膨らませてる、田奈はたくさん泣いて、今度は怒りが沸き上がってきた。 「アタシ、ずっと待ち合わせ場所で待ってたのに、ごめん、忘れてたなんて許せない!!」 「まぁまぁ、落ち着けよ。田奈。な?」 「山都さんは、あのバカの肩をもつの? アタシの味方じゃなかったの?」 「味方って、あれだよ。男ってやつはそういうのが恥ずかしく感じる年頃なんだよ」
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