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「ご飯が喉を通らずに、食欲がなくなる。他のことがどうでもよくなってしまう何か。そう、それは恋でしかないかなぁ?」
いきなり現れた、蛇目に面食らいながら、田奈はフルフルと首を横に振った。
「ありえないわよ、あのサッカーバカが恋するなんて、明日、槍が振りかねないわ」
「槍は降らないだろ」
山都が否定するが、揚羽が言う。
「がさつなスポーツ少年、それを見つめる女の子。ある日、彼は、その視線に気づく、驚いて逃げようとした女の子が急でて、転んでしまうのよ。スポーツ少年は駆け寄って、擦りむいた膝小僧に絆創膏を貼って上げる。『たくっ、トロいんだからいきなり走り出してんじゃねぇよ』『ご、ごめん。ビックリしちゃったから』『チッ、仕方ねーな。家どこだよ』『え?』『家まで送るって言ってんだよ。たまたまとはいえ、お前が怪我したこと話さなくちゃいけないだろ?』『う、うん』と二人は、こうしておしゃべりするようになった。練習が終わったあとは彼女の家でおやつを食べて────うぅ!?」
「揚羽さん、ストップ。ストップです。だ、大丈夫ですからね」
「そうだぞ。田奈。裕樹の奴だって時には腹が痛くなることもあるさ。うん」
揚羽の披露した即席ストーリーを展開して、不安になった彼女は涙目になっていた。
「フフフ。いいねぇ。スポーツ少年と内気な少女の恋。でもねぇ、高間くんとは関係ないかもしれないけれど、こんな記事があるんだけど」
ヒョイッと蛇目が差し出した、新聞だった。
「あ? なんだこりゃ、連続通り魔、護送中に脱走? おい、脱走した場所ってここの近くじゃないか?」
「ま、まさか、高間くんは、その通り魔をかくまっているなんてことありません……あ」
田奈の表情が一気に真っ青になっていく。
「あ、アタシ。探してくる!!」
ドンッと立ち上がった、田奈はわき目も振らずに外に出て行ってしまう。
「おい、田奈。このバカ。この状況でこんなこと言ったらああなることくらいわかるだろ!!」
「別にぃー。どーせ、私の家は避難所ですよぉー。どうせ、私は都合のいい女なんですぅー」
プイッとそっぽをむく、日傘。どうやら彼女は、自分の家を避難所に使われたことを拗ねているらしかった。
「お前な」
「山都様、早く探しに行きましょう」
「別にぃー。どーせ、私の家は避難所ですよぉー。どうせ、私は都合のいい女なんですぅー。バァーカ!!」
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