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「え?」
クマっ子がのそっりと立ち上がり、もう一度、尋ねた。
「山都大聖ってどんな人?」
一方、その頃、本町田奈は街中を走っていた。高間裕樹を探して。不安と焦燥で頭がぐるぐると回っていた。ダメだ。早く、見つけないと大変なことになる。山都達の言うように、連続通り魔を匿っているなんて田奈は思っていないが、これで安心とはならない。
むしろ、心配なのは連続通り魔のほうだ。彼女だけが知る彼の秘密。幼稚園児の頃、近所の凶暴な犬に吠えられて、怯える田奈を守ろうとした裕樹は、傷だらけになりながら巨大な犬を殺した。
幼稚園児ができるようなことじゃないと誰もが信じなかったが、その場にいた田奈だけは知っていた。彼の中にもう一人の高間裕樹がいることに、血だらけになりながら犬を殺した。今でも鮮明に覚えている。黒髪が銀髪になり、頭から狼のような耳が生えた、両手の爪は鋭い爪、尻尾を伸ばし、四つんばいになった彼は怒り狂い、犬を殺す光景を。
まるで月の光で狂暴化する狼男のように犬を殺す姿は幼い記憶の底に深く刻み込まれていた。それ以来、裕樹は動物に触れることやめた。まるで、もう一人の自分を無意識に押し殺しているような。もしも連続通り魔と裕樹が、遭遇し、あの異質な力が発現してまったら、今度は連続通り魔、人を殺してしまうかもしれない。
「いやだ。そんなの嫌だ。裕樹」
怖いと思った。この人は、人じゃない、化け物なんだと思ったけれど、それと同じくらいに高間裕樹を好きな自分いた。危ないとわかっていても、大きな犬に立ち向かう、彼はとてもカッコよかった。いつもふざけてばかりだったから。
だから、彼女は忘れていた。もしかしたら自分が連続通り魔と遭遇するかもしれない可能性を、
「お嬢ちゃん。そんなに急いでどこに行くんだい?」
だらりと両腕をたらした男の手首には、銀色の手錠がはめられて、その手には大振りな包丁が握られていた。
「俺はなぁ。ずっと言われてたんだ。気持ち悪いってな!! 俺のどこが気持ち悪いってんだよ。なぁ? お嬢ちゃんも俺のこと気持ち悪いって思うのか?」
チャリッ!! チャリッ!! と音が鳴り響き、ギラリと包丁の切っ先が光った。
「なぁ? 気持ち悪いかぁ!?」
「ヒッ、いやぁ!! 来ないでっ!!」
「やっぱりか、やっぱりお前も俺のことを気持ち悪いって思うんだな!!」
カッと目を見開いた男が、包丁の切っ先を振り上げた。
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