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田奈は悲鳴を上げた頃、裕樹はピクッと背筋に悪寒が走った。全身がゾワゾワと嫌な気分、自分の大切な物が失われてしまうような、漠然とした予感。裕樹は、目の前にいる、クマっ子を無視して立ち上がった。
「どうしたんだい? 坊や」
「行かなきゃ、今すぐ、行かなくちゃいけないんだ」
ゾワゾワと血が沸騰し、ハァハァと呼吸が荒くなる。クマっ子が、裕樹の手を取った。
「行ってはいけない。君はここにいるんだ」
「うるさいっ!!」
掴まれた手を振り払い、裕樹の手が鋭い爪になった。クマっ子の手を引き裂き、彼の髪が銀髪に染まり、狼の耳が生えた。
「ありゃりゃ……、油断しちゃったかぁ」
一方、その頃、山都は、田奈を探していた。子供の足だ。すぐに追いつけると思ったが予想、以上に早く、いまだに見つけられていなかった。
「あ? 日傘、お前、今、なんて言った?」
首をぐるりと一周、巻きつきながら蛇が喋った。
「だから、連続通り魔の脱走記事が、掲載予定になかったみたいなんだよね」
「嘘だったってことか?」
それなら一安心といきたいが、日傘の口振りから一安心とはいかない。
「いいや、その情報、自体は本物だったよぅ、ただね連続通り魔が脱走したってことは警察だけの機密情報みたいでねぇ。不審に思った、一般人から通報されて判明したようだよぉ」
だから、あっちこっちで大騒ぎなんだよねぇと日傘は言った。
「じゃあ、通り魔はまだ、捕まってないんだな。いや、誰がこんなことを、いたずらにしたらやり過ぎだ」
「いたずらじゃなかったとしたら?」
日傘は言う。
「例えば、このタイミングで、こんな情報があったら山都くんは動くよねぇ。裕樹くんや田奈ちゃんが危険だぁってな」
シャーッと首に巻きついた、蛇が舌を出した。
「お前はこう言いたいのか? どこかの誰かが俺を誘い出そうとしている。新聞を利用したのは、情報元を隠すため、まぁ、どうやって新聞に非公開情報を掲載した、手口はわからないけどな」
「こんなことができるのは、私達と同じ力の発現者とかぁ?」
日傘の曖昧な言葉に、がりがりと頭を掻いて、
「とにかく、探すしかない。揚羽や日傘も力を使えよ」
「あいあい、了解」
と日傘が返事をした。山都は、走る速度を上げた。嫌な予感がする、警察の機密情報を流出させた犯人も気になるが、それ以上に田奈と裕樹が心配だった。
「チッ、後手に回ってるな!!」
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