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あれこれしつこく聞くのは嫌われるから、
今日はこれまで。
「さてと。私、そろそろ行くね。午後から新しいソフトの使い方の指導するの。情報管理部の石川君って知ってる?加瀬君と同期だよね、彼に指導するんだけど」
「!!!!・・・・・・絶対行ってダメ」
「え?」
立ち上がった矢先ものすごく強い力で引き戻され、
加瀬君の両手が私の両肩を強く掴む。
「藤木・・・かおりん、喰われるから。奴の餌食になる、絶対に絶対に行ってはいけませんっ狼に近づいてはダメです!!」
「加瀬君、ものすごく近いんだけど」
目の前。
数センチのキョリに加瀬君の端正な顔がある。
が、どうやら私の声はカレに届いていないらしい。
「俺はアイツと同じ高校だったんですけど、奴の女タラシは伝説になるほど有名でして、イイ女を見たら手当たり次第確実に喰いまくりです!」
「仕事するだけだから」
「一見爽やかな奴のあの外見に騙されて、泣かされた女の子は数えられないくらいでっ。それはもう想像を絶する酷い扱いで、奴の話をしたら1年でも足らないくらいです!」
「私の話、聞いてる?」
「アレは野獣です!アイツ、絶対喰う、絶対確実にかおりん喰うっ!仕事は他の人に代わってもらってください」
「部長命令なんだけど」
「指導は伊東さんに代わってもらってください」
「伊東君、購買部でソフト関係は無知なんだけど」
「口説かれて今日の夜にはホテルに拉致されますっ!奴に指導は無用なので、使用方法が書いてある説明文のコピー1枚で十分です」
「加瀬君」
「ダメです、絶対行ってはダメっ!」
ものすごく真剣な顔で、
ものすごく真剣な声音で、
ものすごく必死になって、
何度も言ってくれるから。
ホント、
・・・・・・期待しちゃう。
「そんなに私の事が心配?」
「心配です!!」
「なんで?」
「えっ?」
「どうしてそんなに私の事心配してくれるの?」
「それ、は」
「他の女性にもこんなふうに忠告するの?」
「・・・したこと、ないです」
「私だけ、なんで?」
「・・・・・・」
「さてと。狼に喰われに行きますか。口説かれて今日の夜はホテルかぁ」
「っっ」
ゆっくり立ち上がると、
再度強い力で引き戻された。
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