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とある作家の奇跡と悲劇
カチカチカチ…
夜中の部屋、薄暗い中で蒼白いパソコンモニターの光に浮かび上がる蒼白な顔。
蒼白に見える…ではなく、実際に蒼白だと思う。
もう締め切り間近だというのに、まったく筆が進まない。
ホラー作家「赤城マヤ」の次回作は、何と来月末に出版予定だ。
原稿すらまだできていないのに。テーマは都会の幽霊だそうだ。一応、構想はできているが、オチがイマイチで編集の木暮がオーケーを出してくれない。
こんな状態で書かなきゃいけないなんて、最低だ。
いつ終わるとも知れない無間地獄。幽霊が出てきて怖がってる作中の女子高生より、この現状の方がよっぽどホラーだ。
こんな夜中に電気も点けずに書いているのも雰囲気に浸って何とかグッドアイデアを引き出したい思いからに他ならない。
寝不足の頭はボンヤリとして、何を書いてるのかもわからなくなってくる。
翌朝。
パソコンのキーボードに突っ伏している体勢で眼が覚めた。
ズレた眼鏡を直して画面を見た瞬間、私の背中に電流が流れた。
「ウソ…これ、私が書いたの?」
煮詰まっていた最後の展開が思いもかけない形で見事に書ききれている。
バッドエンドなのに、少し儚い都会の恋の切なさもあり…面白かった。
「いいですね、先生!さすがベストセラー作家ですよ!」
「いやぁ…窮鼠猫を噛むみたいな…」
私はポリポリと頭を掻いた。
木暮がここまで作品を絶讚するのは珍しい。
斯くして、作品は人気イラストレーターとのタッグ、大々的なプロモーションにより、大ベストセラーとなった。人気は海外にまで及び、ついに映画化も決定した。
「先生、続編いきましょう!」
当然の流れ、私は続編を書くことになった。
「とは言われてもねぇ…」
夜の薄闇の中、ボンヤリ光る画面を眺める日々が再来した。
前回は限界を越えた無意識が奇跡を起こしたが、そう何度も巧くいくはずもない。
「あぁ…美味しいケーキが食べたいな…」
私はボンヤリと画面を眺め、意識を失なう…
「ダメダメ!」
眠りそうな自分に気づいて、ハッと目を開く。
画面の向こうに映る私と眼が合った。
「ダメよ…起きたら…」
画面の向こうの私が淋しそうに笑う。
「おしまいね…」
画面の中の私はそう言って消えた。
二作目は世紀の駄作と評され、私はそれきり文壇から名前を消した。
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