33人が本棚に入れています
本棚に追加
散歩の途中
長く生きるということは
幸せなこと
だが長く生きる
ことによって
さまざまな苦悩を
抱え込むことも確かなこと
人は誰でも
心の底に何がしかの
傷や闇を抱えているのだろう
美奈の心の中には
数えきれないほどの
スクリーンがある
その画面に無数の景色が
まったく整理されず
いずれも
鮮明な記憶として残されている
美奈は時に
その中の一枚の
光景を取り出し
時間をさかのぼって
鮮やかな舞台を眺める……
「あっ、昨日ミナちゃんが夢に出てきた」
ふと彼が言った
「どんな夢?」
「どんな夢だったかな」
「楽しい夢?」
「ふふっ」
「気になるじゃない」
大好きな彼の
夢に自分が現れたと
言われてとてもうれしい
(たとえ、いつもの
おっちょこちょいでもね)
(彼の意識の中に
いるっていうことだから)
時は流れゆく
過ぎ行くままに
身をまかせるほかはない
若いころ時は豊富だ
経験することの
新しさからか
一年は、ずいぶん長く
感じられる
だが時は人の感じかたに
関わらず流れていく……
空が青いと言っては
ひと休み
海がきれいと言っては
ひと休み
風のささやきに頷きながら
今、私たち
二人仲良く散歩の途中……
最初のコメントを投稿しよう!