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年季の入った古い団地の屋上に立ち、僕は大きく手を広げた。 下から吹き上げる風に躰ごと攫われそうになる。 このまま空へ羽ばたいたら、嫌なこと全部消えてなくなるのだろうか。 降り出した雨の雫が頬を濡らした。 僕は最期の瞬間に、一体誰のことを思い出すのだろう。 走馬灯のようにどんな思い出が駆け巡るのだろう。 きっと誰のことも思い出さないし、何の思い出も駆け巡らないことは解っていた。 それでも、僕は静かに瞼の裏を見た。
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