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数ヶ月前までは、会議の後いつもこうして、彼女の部屋へと向かっていた。
ふと、そんなことを思い出した途端、足が竦んでしまった。
いつかは終わると思いながら、あの頃の僕はそんな日が来ることをどこか遠くに感じていた。
ずっと続けばいいとさえ思っていた。
このまま彼女の部屋まで行けば、あの頃の感覚が甦ってしまいそうな気がして、彼女の部屋がある階まで行くと電話をかけた。
土壇場になって、急に会うのが怖くなったのだ。
「すみません。お受けしておいて何なんですが、やはり会わない方がいいと思うんです。だから、もしよければこのままお話し頂けませんか」
電話越しにそう申し出ると、彼女の部屋のドアにそっと背中を預けた。
「分かりました。じゃあこのままで」
何の根拠もないが、彼女も僕と同じようにドアに凭れている気がした。
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