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「これで、絶対最後にするから。もう二度と安西の人生には立ち入れへんから」
言いながら、彼女が正面に立ちはだかった。
情けない顔を見られたくなくて、咄嗟に俯いた。
「今までいっぱいワガママ言って、困らせて、迷惑かけて、ホンマにごめんなさい。最後の最後までこんな勝手なことして……。でも来てくれて嬉しかった。ホンマにありがとう」
満面の笑みで僕にお礼を言うと、彼女は僕に向かって右手を差し出した。
『店長の南です』
初めて会った日の彼女の姿が鮮やかに甦ってきた。
思えば、あの瞬間からすべては始まっていたのかもしれない。
あの時、彼女と握手するのを躊躇ったのは、きっと無意識のうちに気付いていたからだ。
この手を掴めば、恋に堕ちると――。
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