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「さようなら」
あの日『よろしく』と微笑んだ同じ唇から、別れの言葉が零れ落ちた。
僕は彼女の手を掴むと、そのまま抱き寄せた。
「晴奈……」
最後にもう一度だけ、強く抱きしめたかった。
「貴一」
反応するように、彼女の腕の力も強くなった。
「好き……」
何の違和感もなく、彼女が自然に口にした禁句に驚喜した。
その言葉は大事なことを思い出させてくれた。
「……ルール違反ですよ」
「フフ。懐かしい」
笑う彼女の声は涙に濡れていた。
「最後にひとつだけ訊いていい?」
「うん」
「安西は、わたしのこと本気で好きやった?」
不安そうに呟いた彼女をさらに強く抱きしめた。
「……もう死んでもいいと思えるぐらい本気で好きやったよ」
僕は何を思い煩っていたのだろう。
彼女は、僕が理想としていた世界を与えてくれてたというのに。
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