26/28

637人が本棚に入れています
本棚に追加
/262ページ
「さようなら」 あの日『よろしく』と微笑んだ同じ唇から、別れの言葉が零れ落ちた。 僕は彼女の手を掴むと、そのまま抱き寄せた。 「晴奈……」 最後にもう一度だけ、強く抱きしめたかった。 「貴一」 反応するように、彼女の腕の力も強くなった。 「好き……」 何の違和感もなく、彼女が自然に口にした禁句に驚喜した。 その言葉は大事なことを思い出させてくれた。 「……ルール違反ですよ」 「フフ。懐かしい」 笑う彼女の声は涙に濡れていた。 「最後にひとつだけ訊いていい?」 「うん」 「安西は、わたしのこと本気で好きやった?」 不安そうに呟いた彼女をさらに強く抱きしめた。 「……もう死んでもいいと思えるぐらい本気で好きやったよ」 僕は何を思い煩っていたのだろう。 彼女は、僕が理想としていた世界を与えてくれてたというのに。
/262ページ

最初のコメントを投稿しよう!

637人が本棚に入れています
本棚に追加