犬も歩けば猫に当たる2

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(タイミング悪かったなー……) いつかお礼に行くとは言われていたが、それでもいきなりアポイントメントなしで来るとまでは思わなかった。 相手が囲碁というマイナーな競技とは言え名人と言われている位だし、時間の制限だってしがらみだって結構あるだろうと踏んでいたのに。 『あんた若いのに弁護士先生だったのか!いやぁ、助かったよ!』 あっけらかんと豪快に笑う老人の笑みが思い出される。 確かにあれだけ年の割には落ち着きなく、好奇心が旺盛であればいいカモにされてもおかしくはないかもしれない。 (痴漢の冤罪は俺の専門外なんだけどなぁ) だけど見てしまったものを見過ごすわけにもいかなかった。悲しいかな職業病のようなものかもしれない。 思い返せば何であの日は普段車で移動するのを電車にしたのかもはっきりしないが、車内に入ってすぐ不穏な空気を感じてしまった時から始まってしまっていたから仕方ない。 人は俺を途中で人助けをする善人だと思っているようだが、実際はただ目の前にそんな空気を感じてもなお見てみぬフリが出来ないだけだ。察しがよ過ぎるのも玉にキズかもしれない。 あの時もそうだ。ちらりと見れば2人組の女性。その近くにぼんやりと立つ着物姿の老人と、後は広い車両に点々としている乗客達。 まるっきり部外者がゼロという訳ではなかったが、すぐにわかってしまった。
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