犬も歩けば猫に当たる2

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「どうしましたか?」 騒ぎを駆けつけた駅員に女性2人組が助けを乞うように視線を投げる。 これで連れて行かれれば辿る末路は2つ。 1つは示談金を払って喧嘩両成敗。もう1つは無罪を主張して裁判を起こす事。 今の日本では残念ながら前者で片づける事がほとんどだ。何せ万引きと違って決定的な証拠がない。 あるのは被害にあった人からの申し出ただ1つ。中には良心の呵責や社会的地位から認めるレアケースもあるが、こんなのないに等しい。 だから中にはこんな風に、“痴漢詐欺”まがいな事をやろうとする人も出てくるわけで。だけど勝算が十分あり、しかも2人組の犯行となれば確かに癖になる人がいてもおかしくはないのかもしれない。法システムとしては破綻しているのもいいところだ。 「?おれはやってない。何かの勘違いだろ」 (へぇ) 騒ぎが段々と大きくなっていく中でも、加害者になろうとしている老人はあくまで毅然とした態度を崩さない。 背筋を伸ばし、眼光は鋭いながらも女性達を気遣うように弱められていて、この人はきっとそれなりの地位がある人、もしくは人の上に立った事があり、保守的な考えの持ち主ではないのがすぐにわかる。 「あんたしらばっくれる気!?」 「そうよ!痴漢したのに言い逃れる気!?」 「言い逃れも何も、お嬢さんらの勘違いだろ」 (……) 別に何を言われても弁護する気ではいたが、何と言うのか。 清々しくて見ていて気持ちがいい容疑者は久しぶりに見た。そうそう、これだけ潔く、自分の主張をはっきりと言ってくれるクライアントがもっと増えれば日本の法律はもう少しいい方向に動くんだろう。
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