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「そうですね。この方の言う通りです」
どちらが正しいのか判断をつきかねている駅員に向かって、にっこりと笑顔を向けながら2つの“決定的な証拠”を出す。
1つは音声、もう1つは動画。これはもう動きようもない証拠として誰でもわかるもの。
案の定2人組の顔がさっと青くなる。
「残念だったね。これに懲りたらもう2度とこんな真似しちゃだめだよ?」
「……」「……」
「でもまぁ……」
『立派な詐欺罪で裁かれちゃう証拠にもなってるけどね』
駅員に警察に渡すように言いながら証拠を預け、すれ違いざまに有罪判決を打ちつければ、まるで幽霊を見るような視線を投げてくるが、残念ながら同情も何も沸かない。
ただがっかりする気持ちが膨らんで、せめてこれから会うクライアントは女性絡みじゃなきゃいいなと思ってしまう。
「ちょっといいかい?」
「はい?」
まだざわつく構内をさっさと抜けようと足を速めようとする前に、後ろから声をかけられる。
振り返ればさっきは容疑者、今では被害者に変わった着物姿の老人が笑みを深める。
「準備がよくてびっくりしたぜ。あんたもグルか?」
「あはは、ならあなたを有罪にする方法を考えますよ」
「そりゃそうか!」
よくよく見れば60歳代位の男性であるのはわかるが、悪ガキが大人になったような笑顔を向けられると、もっと幼い印象を受ける。
それなのに瞳は成熟したものを持っているようで、少しアンバランスな感じがする。
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